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「郵送式HIV検査キットって、本当に信用できる?」
恐らく、初めて郵送式HIV検査キットを利用する人が、一番気になるのがこの疑問でしょう。
どの検査キット企業も「病院や保健所と同じ信頼性」とアピールしていますが、自社のアピールなのでそのまま信用はできません。
やはり第三者の公正な評価が知りたいものです。
そこで、郵送式HIV検査キットの検査精度に関して、検査キット企業以外の第三者が評価した結果を集めてみました。
全部で6件紹介しますが、全て厚生労働省のエイズ対策事業の一環としての評価です。
その評価の結論は、
「検査精度としては実用レベルにある」
と言うものです。
更に突っ込んで、保健所HIV検査の代替としての有効性を認めています。
ただし、運用面や法的な整備については課題があり、今後の検討、対策が必要としています。
では、具体的な評価について本文をご覧ください。
厚生労働省が郵送式HIV検査キットを調査・検討する理由
厚生労働省による「郵送式HIV検査キット」の評価記事が、ネットで目につくようになったのは2015年頃からと記憶しています。
私がHIV検査の体験記をブログ公開し始めたのが2010年頃で、ネットで郵送式HIV検査キットの情報を集めていたので記憶に残っています。
それから少しずつ、郵送式検査キット評価の記事が増えてきたように思います。
増えてきた理由の1つは、郵送式HIV検査キットの普及だと思います。
下のグラフをご覧ください。
2008年以降の郵送式HIV検査キットの年間使用量の推移です。
【郵送式HIV検査キットの使用量推移】
*HIV 郵送検査の実態調査と検査精度調査(2019-2021)からグラフ化
このグラフの元データも厚生労働省のエイズ対策事業の研究班が公開しているものです。
グラフを見て一目瞭然、郵送式HIV検査キットは年々使用量を増やし続けています。
2020年以降は新型コロナの影響もあって数量が減っていますが、それでも保健所HIV検査を上回る使用量です。
こうした普及状態を見れば厚生労働省としても放置は出来なかったのだと思います。
現在、郵送式HIV検査キットは医療器具として認可されたものはありません。
各検査キット企業がホームページで「医療器具認可済み」と表示しているのはランセットと呼ばれる採血用のツールであり、検査キットそのものではありません。
それだけに厚生労働省としては現状の普及状態から一定のガイドラインを示したり、法整備を急ぐ必要を感じているのでしょう。
そのガイドライン作りや法整備の為に、郵送式HIV検査キットの信頼性評価は欠かせない訳です。
厚生労働省による「郵送式HIV検査キット」の評価報告
ではここから6件の評価報告を紹介していきます。
いずれも厚生労働省のエイズ対策事業の一環で調査したものです。
①東北における MSM に対する検査提供と介入の効果評価
●タイトル
●調査・報告機関
厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策政策研究事業
MSM に対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入に関する研究
総括・分担 研究報告書
●実施年度
2021年
【検査キットの信頼性に関する内容】
●調査の目的
2021年9月~2021年12月にかけて、東北地方でMSM(男性同性間性的接触者)向けに保健所HIV検査の代替として郵送式HIV検査の可能性を検証する調査が行われた。
新型コロナ対応で保健所が従来のHIV検査体制を維持出来ず、定期的にHIV検査を受検していたMAMがHIV検査の受検機会を減らしている。
その代替としての郵送式HIV検査の検証であった。
●結果報告
この調査では、そもそも郵送式HIV検査キットの信頼性は問題として扱っていない。
主な調査対象はその運用面であり、信頼性は問題なし、が前提となっている。
報告書の結論は、郵送式HIV検査が保健所HIV検査の代替として可能性ありとしている。
②HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究
【検査キットの信頼性に関する内容】
●目的
新型コロナの影響で、保健所HIV検査の機会を減らしている受検者の為に郵送式HIV検査の実用性を検証する。
また、郵送式HIV検査を「プレ検査」として新しい用途を開発したり、地方のハイリスク層への新たな受検勧奨モデルとしても検証する。
●結果報告
郵送式HIV検査キットの信頼性について調査した結果が報告されている。
「乾燥ろ紙血を45℃で8日間保存した場合のみ、5種類中3種類(7検体中3検体)の陽性血漿で抗体価の低下がみられ、それ以外の温度、湿度、ろ紙乾燥時間の条件では抗体価の低下はみられなかった。」
と報告されています。
45℃で8日間保存って、調査条件としてはかなり厳しいと思います。
基本は自宅で検体採取したら即販売元へ郵送し、到着後1日~3日以内に検査結果が分かります。
45℃で8日間と言う条件は現実にはあり得ないと思いますが、安全性確保の為にはマージンは大きい方がいいのは確かです。
この結果をもって、「検査精度の信頼性向上が必要」としていますが、現在の検査精度で利用できないとは報告されていません。
むしろ前向きに保健所HIV検査の代替利用、プレ検査としての利用など、前向きな取り組みが検討必要とされています。
なお、この報告書の詳細議事録はこちらにあります。読むのに骨が折れますが、興味ある方はどうぞご覧ください。
③HIV 郵送検査の実態調査と検査精度調査(2021)
●タイトル
●調査・報告機関
厚生労働科学研究費補助金【エイズ対策政策研究事業】
HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究
(分担)研究報告書
●実施年度
2021年
【検査キットの信頼性に関する内容】
●目的
利用数が急増しているHIV郵送検査キットの現状を把握し、検査精度を検証する。
検査キット企業13社にアンケート調査実施、5社について検体サンプルを送り、検査精度の確認を行った。
●結果報告
検体サンプルを送った5社のうち、4社は検体の陽性、陰性が完全一致したが、残り1社については一致しなかった。
今後は運用面の課題解決も含めて、
「郵送検査をより安心して受けられ、信頼できる検査とする必要がある。」
と結んでいる。
●補足
こうした検査精度の検証は、この調査以前にも行われています。
例えば2018年にも同様の調査が行われ、検査キットによる精度の差が存在することが分かっています。
*厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業
「HIV検査受検勧奨に関する研究」班によるHIV郵送検査ブラインド調査(2018年)
私が3回利用したSTDチェッカーは検査精度が最も良い結果となっています。
各社で検査精度にバラツキがあることが分かります。
④HIV 検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究
●タイトル
●調査・報告機関
厚生労働科学研究費補助金【エイズ対策政策研究事業】
HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究
(分担)研究報告書
●実施年度
2021年
【検査キットの信頼性に関する内容】
●目的
郵送検査実施の制度・法的根拠の課題抽出、抽出された課題に対する法律・行政規則・各課題のガイドラインを整備・検討する。
●結論報告
郵送式HIV検査が医療認可された検査ではないにも関わらず、保健所HIV検査を上回る件数利用されている。
結果、「法的なグレーゾーン」を抱える形で展開されていると結論づけ、今後の課題としている。
検査精度そのものを問題点として指摘する内容はなく、保健所HIV検査の代替検査として活用すべく前向きな取り組みを述べている。
⑤自己検査キットによる検査機会の拡大と血清行動疫学調査の実施
●タイトル
『自己検査キットによる検査機会の拡大と血清行動疫学調査の実施』
●調査・報告機関
厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策政策研究事業
MSM に対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入方法の開発に関する研究
●実施年度
2017年
*タイトルの「自己検査キット」は、一般的に言われる「郵送式検査キット」であり、輸入品の自分で検査結果の判定まで行う「自己検査キット」とは異なる。
【検査キットの信頼性に関する内容】
●目的
郵送式HIV検査が、MSM(男性同性間性的接触者)のHIV検査受検の拡大に効果的な役割を果たすか検証する。
●結果報告
調査前に郵送式HIV検査の精度確認が行われている。
陽性50検体のテストでは49検体で陽性、陰性50検体では50検体で陰性となった。
感度98%、特異度100%となった。
●補足
精度確認の方法について詳細な説明が記載されていません。1社の検査キットで検証を行ったのか、複数の企業だったのか分かりません。
②の報告書と似たような結果です。
やはり郵送式HIV検査キットを選ぶ時、信頼性重視で選ぶ必要があります。
⑥HIV 郵送検査の在り方とその有効活用に関する研究
●タイトル
●調査・報告機関
厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策政策研究事業
男性同性間のHIV感染予防対策とその介入効果の評価に関する研究
●実施年度
2017年
【検査キットの信頼性に関する内容】
●目的
郵送式HIV検査が、「信頼性が高く安心して受けられる検査」として社会的ニーズにこたえられるよう、現状把握、問題点の抽出などを行う。
●結果報告
郵送式HIV検査キット5社について、検査精度の確認を行っている。
陽性検体51、陰性検体49、合計100検体を用意し、5社それぞれの検査キットで判定した結果と突き合わせる。
結果として、5社共に感度100%、特異度100%だった。
ただし、5社中1社は陽性51検体について陽性44、保留7であった。この結果でも日本エイズ学会の推奨に従い感度100%となる。
今回の精度確認ではHIV検査として許容できると思われるが、利用数が更に増えつつあることから、今後も第三者による精度確認は必要と結論づけている。
まとめ|利用者として注意すべき3点
今回は6件の郵送式HIV検査に関する調査報告を紹介しました。
6件全て厚生労働省エイズ対策事業の一環として調査報告されたものです。
郵送式HIV検査キットの信頼性について、医療機器としての認可を受けていないことを前提としながら、
●保健所HIV検査の代替利用が可能である。
●陽性判定のフォローなど、運用面での課題がある。
●第三者機関による、継続的な検査精度確認が必要である。
●今後は運用面でのガイドライン策定、法整備など安全面での環境整備が必要。
と報告されています。
冒頭にグラフで示したように、郵送式HIV検査キットの利用者は増加し続けており、今後も厚生労働省としては関与を強めるものと思われます。
【利用する立場で注意すべき点】
今回の報告を、私たち利用者目線で読んだ時、注意すべき点は3つです。
①信頼性の高い検査キットを選ぶ。(私個人はSTDチェッカーしか使いません)
②陽性時のフォローも含めて、サポート体制の充実した検査キットを選ぶ。(私個人はSTDチェッカーしか使いません)
③検査キットの利用に際しては、製品に指示された正しい使い方を守る。(検査のタイミングや血液採取の方法など)
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